大判例

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東京高等裁判所 昭和30年(う)3288号 判決

被告人 後藤桂次郎

〔抄 録〕

本件控訴の趣意は被告人本人ならびに弁護人H提出の各控訴趣意書記載のとおりであるからここにこれを引用する。これに対する当裁判所の判断は左のとおりである。

記録を調査すると、被告人は昭和三〇年四月一五日自動車運転免許証をもたないで小型自動四輪車を運転したことが認められる。所論はいずれも「被告人が所轄の警察署長から現実に運転免許証の交付を受けたのは同月二一日であるが、これより以前の同月十三日に埼玉県公安委員会から運転免許を得ていたから、前記自動車を運転した四月十五日には既に運転資格を有していたものである。従つて被告人を無免許運転として処罰した原判決は法令の解釈を誤つたものである。」と主張する。

そこで自動車運転免許の効力はいつ発生するかについて考えてみると、道路交通取締法第九条は「自動車は公安委員会の運転免許を受けた者でなければこれを運転してはならない」(第一項)「前項の規定による運転免許は自動車運転試験に合格した者に対し運転免許証を交付してこれを行う」(第二項)と定め、また道路交通取締令第四二条は「運転免許は自動車運転者試験に合格し、且つ左の各号の一に該当しない者に対し別記様式第一の運転免許証を交付してこれを行う」(下略)と定めているから、自動車の運転資格は、自動車運転試験に合格したのみでは足らず、運転免許証の交付があつたときに初めてその効力を生ずることが明らかである。そこで、それでは右にいわゆる「交付」というのはいかなる行為をいうかという点について検討することにする。所論は、「自動車の運転資格は、現実に免許証が交付されたかどうかにかかわりなく、運転免許証に記載された日附の日に発生するものであるから、当該運転免許証に交付日付と記載された日に『交付』があつたものと解すべきである。」と主張するのであるが、「交付」という言葉は通常目的たる物の占有を移転する場合、換言すれば現実にその物が授受されるときに用いられるものであるところ、道路交通取締に関する法令を検討しても、交付という言葉を前記ような通常の用例に反した意義に用いていると認められるところは一つも発見することはできないのみならず、道路交通取締法第二六条の二によれば、都道府県公安委員会から自動車運転免許証の交付を受けようとする者は、その交付手数料を納めなければならないから、仮令運転試験に合格し、かつ法定の欠格事由がないと認定された者でもその手数料を納付しない限り運転免許証の交付を受けられないことになつていること、また道路交通取締法第九条第三項によれば、自動車の運転者は、運転中運転免許証を携帯していなければならず、これに違反した者は処罰されることになつているが(同法第二九条第一号)、未だ運転免許証の交付を受けていない者は事実上これを携帯することができないのであるからその不携帯は処罰の対象とならないと解せざるをえないのである。けれども、もし所論のように現実に運転免許証の交付を受けないでも運転資格があるとすると、正規に運転免許証の交付を受けた者が一時これを携帯しないで自動車を運転した場合には処罰されるのに反し、運転試験に合格したが未だ運転免許証の交付を受けない者が自動車を運転しても無免許運転の罪は勿論、免許証不携帯罪にも問われることがなく、全然処罰を免れるという不合理な結果を招来することなどを併せ考えると自動車の運転免許は運転試験に合格した者に対して現実に運転免許証が交付された時にその効力を生じ運転資格はその時に初めて発生するものと解するのを相当とする。

もつとも、記録を調査すると、被告人は昭和三〇年四月一二日埼玉県大宮市で行われた自動車運転試験を受けた一両日後同県警察部交通課の係官に問合せたところ、合格している旨の返事を受けたことならびにその後被告人に交付された自動車運転免許証には昭和三〇年四月一三日交付と記載されていることが認められるけれども、自動車の運転資格は、前叙のように運転試験に合格したのみでは発生するものではなく、その者が法定の欠格事由のないことが確認され、かつ運転免許証交付手数料を納付した上、現実に運転免許証を受領したときに初めてその効力を発生するものであるから、仮に被告人において、運転試験に合格したことを確認したので運転資格を取得したと信じたとしてもそれは道路交通取締法規の誤解であり、単なる法律の錯誤に過ぎないから、犯意を阻却するものではない。また前に判示したような理由と原審証人柴崎林市の証言とを対照すれば、自動車運転免許証に記載される交付日附なるものは、埼玉県公安委員会が運転試験合格者に対して運転免許証を交付することを決定した日を表示するものであつて、運転免許の効力発生の日そのものを表示する趣旨ではないと解するのを相当とするから、仮令その後において被告人が交付を受けた運転免許証に記載された日附が本件犯行の日より以前であつたとしても、その日に遡つて運転資格が発生するいわれはない。従つて被告人が未だ運転免許証の交付を受けないのに自動車を運転した以上仮令その後において運転当日より以前の交付日附の記載された運転免許証の交付を受けたとしてもその刑事責任を免れることのできないのは論をまたないところである。

以上要するに道路交通取締法規の文理上は勿論、「交付」という言葉の通常の用語例や、運転免許証交付手数料納付手続、または運転免許証不携帯罪との権衡、などからみると、自動車の運転免許は運転試験に合格した者が現実に運転免許証の交付を受けたときからその効力を生ずるものであると解せざるをえないから、右と同趣旨に出でた原判決は正当であつて、これに反する被告人や弁護人の所論はいずれも採用することができない。従つて論旨は理由がないといわねばならない。

(花輪 山本 下関)

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